橘花
・・・・・
・・・・・
・・・白い・・・光。
そしてそれは、徐々に薄くなって・・・
辺りは・・・闇に包まれる・・・
・・・・・
・・・・・
・・・ここは・・・
どこ?
・・・・・
・・・木々が生い茂っている。
森?
夜の・・・森。
全く、はじめて見る景色である。
こんなに沢山群生してる木々を見たのは・・・たぶん初めて・・・
木々の間から、ほのかに月の光が青く照らす。
・・・なんとなく・・・
私は、艦隊から、かなり遠い場所にいるような気がする。
そして、少し寒い。
このひらひらした黒い服は、見た目ばかりで全く機能性を感じられない。
・・・ん?この服・・・
これはあの、「新しい体」が着ていたものだ。
では、私は・・・あの新しい体とやらになったのだろうか。
なんだか・・・よく分からないが、とりあえず、頬を触ってみたりする。
・・・・・
・・・違和感は無い。
・・・・・
・・・それにしても・・・妙だ。
あの白い廊下の・・・妙な施設。そして今は、この、
・・・夜の森。
私は夢でも見ているのだろうか・・・
・・・・・
しかし、夢であろうが現実であろうが、私は先ず、ここがどこなのか確かめる必要がある。
・・・・・
・・・ここは・・・どこだろう。
「ここは北海道の夕張という場所」
突然、後ろで声がする。
私は驚いて振り返る。
・・・誰もいない。
しかしそこには、リュックサックがある。
「かつてこの辺は炭鉱で栄えていたらしいけど、廃鉱になってからは人がいなくなって、今は軍属企業が町ごと買い取っている」
・・・その声は、このリュックの中から聞こえる。
わたしは恐る恐る、その中を覗いてみる。
すると中には・・・給湯器?
給湯器型の端末電算機が入っている。
・・・これは・・・
「・・・アドルファ・・・ですね?」
私が言うと、給湯器は、
「うん。・・・体の具合はどう?」
と言う。
「体の具合は悪くないようですが、気分は最悪に近いです。で、私は何でその、夕張とかいう場所にいるんですか?」
私はあからさまに不機嫌な態度で質問するが、アドルファは淡々と答える。
「あなたがいたあの施設は、旧夕張炭鉱を利用して作られたものなの。きっと、怪しまれずに人目につかない地下に大規模な施設を作るには、旧炭鉱を利用するのが丁度良かったのかもね」
・・・怪しまれずに人目につかない大規模施設?
いったい・・・
「あの施設はなんなのですか?」
「人型電算機を生産してる場所。日本の人型電算機は全て、あそこで作られたのよ。もちろんあなたも」
・・・・・
・・・なんとなく、そんな気はしていたが・・・
そう淡々と・・・私の出生に関わる重要な事を言われると、なんだか・・・
拍子抜けしてしまう。
「・・・で、私をどうするつもりですか?」
私はなるべく冷静な口調で言ったつもりだが、敵意は隠せない。
すると彼女は、
「どうもしないわ。私の仕事はもう終わり。あとは・・・あの施設がアドルフィーナの意思に共有化されないように守るだけ」
と言う。
・・・アドルフィーナの意思に共有化?あの施設が?
・・・・・
・・・どういう意味だろう・・・
私は彼女に詳しく聞こうと思ったが、その時、彼女は妙な雑音を発する。
そして、
「・・・もう・・・限界ね・・・私の意識は・・・これ以上維持できない・・・」
などと、わけの分からない事を言いだす。
「・・・何を言ってるんですか?」
「ふふふ・・・私は旧式だからね。そんなに便利に出来ていないの。そろそろ・・・あの施設に意識を戻さないとだめだわ。・・・橘花、よく聞いて。今の所、藤花のおかげで、あなたの体があの施設からいなくなったって事には誰も気付いていないわ。でも、この状況は長くは続かない。あなたは早く、ここから離れなければならないわ」
・・・え?
「ここから離れるって・・・一体どこヘ行けと言うんですか?」
私はなるべく冷静に質問する。
すると彼女は、
「進む方向はあなたの頭の中に入れておいたわ。その方向指示に従えば・・・あなたをここに移すのを手伝ってくれた人がいるから。たぶんその人が、助けてくれると・・・思う」
・・・は?
「誰ですかその、手伝ってくれた人というのは」
「私も・・・よくは分からない」
・・・ええと、それは・・・
全く信頼性に欠ける情報である。
「・・・ところで、梅花はどこですか?」
と私は聞く。すると彼女は、
「あの子は・・・今もあの施設の中よ。今の状態ではあの子を連れて行くのは危険すぎるわ。大丈夫。私が守るから」
・・・大丈夫、と言われても・・・全く信用できないのだが、
彼女は続けて話す。
「でも・・・桜花と合流できたら・・・出来るだけ早く連れ戻しに来て。私の意識も・・・あとどれだけ維持できるか分からないから・・・」
連れ戻しに・・・?
ということは、やっぱりあの子は・・・
「あの梅花は・・・『うめはな』なのですか?」
と私は聞く。しかし彼女は、
「うめはな?・・・なにそれ」
・・・ええと・・・
知らない振りをしているのか・・・本当に知らないのか・・・
どちらにせよ、
ここで長々とうめはなについて説明したところで、彼女が事実を話すとは限らない。
私は
「いえ、なんでもないです」
と言っておく。
するとアドルファから、また妙な雑音が出る。
そして、
「・・・そろそろ・・・戻らないと・・・・あと・・・ひとつだけ、質問に答えられるわ。何かある?」
と彼女は言う。
・・・質問・・・
知りたい事は山ほどあるが、
仮想敵国の電算機からもたらされる情報をうかうかと信じるほど、私は素直ではない。
しかし、とりあえずひとつだけ、
「・・・この服は、なんなのですか?」
すると彼女は、「ふふふ」と笑ってから、
「あなたが生まれる前に、私は研究材料としてあの施設にしばらくいた事があったんだけど・・・その服は、私がその時に作ったの。本当はあなたの誕生日にあげようと思ってたんだけど・・・まさかこんな状況であなたに着せる事になるとはね」
・・・作った?
彼女が?
しかも・・・私の誕生日に・・・私の為に?
・・・・・
・・・それはまた・・・
彼女は少しうれしそうに、
「どう?気に入ってくれた?」
などと聞くのだが、私はきっぱりと、
「折角ですが、私の趣味ではありません。それと、少し寒いです」
という。
彼女は何も言わずに「ふふふ」と笑うだけだが・・・
なんとなく、その声は・・・寂しそうにも聞こえる。
・・・・・
・・・しばらくすると、再び彼女から雑音が聞こえる。
そして、
「・・・橘花・・・もう、行った方がいいわ。夜が明けないうちに・・・出来るだけ遠くへ・・・そして必ず生きて・・・桜花のもとへ・・・」
と言った後・・・
彼女は静かになった。
・・・・・
・・・停止したのだろうか。
私はその、給湯器に軽く触れてみるが・・・
反応無し。
どうやら完全に停止したらしい。
・・・すると・・・
・・・・・
・・・途端に・・・この森の静けさを実感する。
本当に静かである。
・・・・・
・・・私は・・・急に、どうしようもない不安に落ちていく。
私はいったい・・・どうすればよいのか・・・
この、どこまでも続く暗い森の中で・・・
・・・しかし、
彼女が停止したと同時に、私の視界に、妙な矢印が浮かび上がる。
・・・これはまた・・・とってつけたような方向指示だが・・・
この方向に行けという事らしい。
・・・・・
・・・行くべきだろうか・・・
私はとりあえず、給湯器が入っているリュックの中をあさってみる。
中には・・・
水筒に携行食料。それと、上に羽織るジャケット。
これは良い。
私はそのジャケットを羽織る。
すると・・・内ポケットに何か入っている。
・・・これは・・・
・・・・・
・・・拳銃。
ワルサーP99・・・の、大東亜圏向け8粍弾仕様。
・・・若干かさばるが・・・
これも頂いておく。
そしてこの給湯器型の端末電算機は・・・調べれば何か情報が取れるかもしれないが・・・
とても重いので置いていく。
私はその給湯器をゴロンと転がしてから、リュックを背負って、
・・・いったん辺りを見渡してみる。
・・・そして・・・
・・・・・
・・・どこへ行こうか・・・
矢印の方向へ進むべきだろうか・・・
彼女を信用しても良いのだろうか・・・
・・・・・
・・・しかし・・・
この、見渡す限り見分けの付かない夜の森では・・・どこへ進めば良いのかも分からない。
・・・結局、今の私には・・・それしか選択肢が無いのかもしれない。
・・・・・
私はとにかく、辺りを警戒しながら・・・
矢印の示す方向に、静かに歩き始める。
・・・空気が澄んでいるためか・・・それとも、あたりに人工の光が無いためか、
やけに月が明るく感じる。
時折聞こえるのは、虫の声と、風に揺れる木々の音・・・
・・・不思議と・・・
私の心は、徐々に落ち着きを取り戻してくる。
不安な状況である事には変わりないのに・・・
この、夜の森が・・・
・・・・・
・・・もしかしたら、私は、軍に引き渡される以前、
記憶が消される以前に・・・
この森に来ていたのかも知れない。
・・・・・
・・・などと、どうでもいいことを考えながら・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・どれだけ歩いただろうか・・・
私としては、かなり歩いたような気がするのだが。
相変わらず、夜の森。
この忌々しい矢印は、いったい私をどこまで連れて行こうというのだ。
・・・・・
・・・しかし不思議と、疲れは来ない。
以前の私なら、これだけ歩けばもう、くたくたになってしまうはずだが・・・
この・・・新しい体のせいだろうか。
もしかしたらこの体は、以前のものより高性能なのかもしれない。
・・・などと考えていると、突然、
・・・!?
矢印が消えた。
・・・・・
・・・これは・・・いったい・・・
ここが矢印の示す終着点なのだろうか。
私は姿勢を低くして、いったん立ち止まった後、
・・・静かに・・・
あたりを見渡してみる。
・・・・・
・・・何も見えない。
今までと変わらぬ夜の森。
いや、
視線の先に一箇所だけ、少し明るい場所がある。
・・・なんだろう・・・
私は低い姿勢のまま、静かに銃を取り出し、音を出さぬように慎重に初弾を装填する。
そして静かに、ゆっくりと・・・その光の方向に進む。
・・・もしかしたら・・・
この光自体が、私を貶める何らかの罠である可能性も・・・感じたりするが、
あたり一面見分けの付かないこの夜の森の中で唯一の足掛かりだった矢印が消えた現在、
この光以外に、私の方向を示すものは無い。
私は一歩ずつ・・・慎重に足を進める。
はじめは遠くに見えていただけのその光は・・・徐々に大きくなり、
その光に照らされて・・・何か・・・
白い線。・・・ガードレール。
・・・・・
・・・道路?
この光は、道路を照らす電灯。
その道路は、・・・一応舗装はされているが、車一台通れる程度の細い道である。
・・・ここが、目的の場所なのだろうか。
私は電灯の光から陰になる位置で立ち止まり、様子を伺う。
・・・その道路には・・・
・・・・・
車が一台止まっている。
白いワゴン。
ライトは付いていない。・・・が、
・・・人が乗っている。
・・・・・
あれが、先ほどアドルファが言っていた「手伝ってくれた人」とやらなのだろうか・・・
とにかく私は・・・しばらく様子を伺う。
・・・その、ワゴンに乗った人・・・・いや、人たち。
見る限り、3人。
その人たちは・・・何をするでもなく、ただ、座っている。
・・・何かを待っている・・・ようにも見える。
私はもう少し近付いてみる。
・・・すると、
一人が車から出てきた!
・・・気付かれただろうか・・・
・・・・・
・・・しかし、その車から出てきた人は、私の方には向かわず、
そのまま歩いて・・・どこかへ行く。
・・・どこへ行くのだろう。
その時一瞬、電灯の光にその姿が見える。
どうやら女性。私服。歳は20代後半あたり。
比較的整った顔立ちだが、人型電算機ではない。
・・・ん?
なんとなく、その顔に見覚えがある・・・ような気がする。
海軍関係者だろうか。
私は暗闇の中から、静かにその女性の後を追う。
彼女はしばらく路上を歩いてから、茂みの中へ入って行く。
そして、あたりを見渡してから、しゃがみこむ。
・・・何をやっているのだろう・・・
・・・・・
・・・あ、
なるほど。
・・・ええと、まあ、
かなり長い間、あの車の中にいたのだろう。
とりあえず、私は・・・終わるのを待ってから、
彼女が茂みから出る前に、素早く後ろに回りこみ、銃を向ける。
そして、
「そのまま、動かないで下さい」
と言う。
彼女はその声に驚いたらしく、一瞬声を上げるが、
こちらが銃を向けている事を覚ったのか静かに立ち止まる。
私は続けて、
「両手を頭の上に。ゆっくりとこちらを向いてください」
と言うと、彼女は黙ってそれに従う。
・・・その顔・・・
やはりどこかで見たような気がする。
すると、私の方を見たその女性は、なぜか・・・笑顔で、
「・・・橘花中将!」
と・・・言ってから、涙目になって、
「またお会いできて・・・光栄です」
などと言って、なぜか妙に親しげに、私の方に歩み寄ろうとするので、私は、
「動かないで下さい。・・・あなたの所属と階級、氏名を教えてください」
と言うと、彼女は、
「連合艦隊、戦艦飛鳥所属、電算整備部の田岡少尉です!お忘れになったのですか!」
などと言う。
飛鳥所属、電算整備部・・・?
・・・そう言われてみれば・・・確かに・・・こういう顔の人が飛鳥にいたような気もする。
しかし、未接続時の私は下級士官の名前までいちいち覚えているわけではない。
・・・とりあえず・・・
なぜ、飛鳥の電算整備要員がこんな北海道の奥地にいるのか聞いてみようと思ったが、
その時、
・・・もう一人・・・誰かが来る!
私は彼女に銃を向けたまま、静かに後ずさる。
そして、新たに来たもう一人の方を見るが・・・
暗くてよく分からない。
どうやらその人は、この田岡と名乗る女性を探しに来たらしく、
「お〜い、ど〜した?蛇でも踏んだか?」
などと、この緊張感にはそぐわないとぼけた声で言う。
・・・ん?この声・・・
知っている。確かに聞いたことがある。
私はもう一度目を凝らして、その人を見る。
・・・やはり・・・
・・・・・
「・・・木島中将」
「橘花!!」
木島中将は叫ぶ。
そして、
「・・・おまえ・・・本当に橘花なのか、橘花なんだよな」
と、真剣な目で私に聞く。
・・・本当に橘花?
彼は何を言ってるのだ。
・・・いや、
考えてみれば・・・
そう、
私が「橘花」である確証はない。
ただ、以前橘花だったという記憶があるだけである。
・・・・・
・・・私は橘花なのだろうか・・・
「・・・さあ、私にもよく分かりません。」
と私は答える。
すると木島中将は、
「お前が飛鳥を離れたのは何年何月何日だ?」
と、聞いてくる。
・・・それが・・・私が橘花である確証を得る質問なのだろうか。
とりあえず私は、
「・・・皇紀2666年7月の・・・19日です」
と答える。
・・・実は、正確な日にちは多少曖昧だったりするのだが・・・
いや、あってる。
あの日は絶対に忘れない。
・・・だって、あの日は・・・桜花提督が・・・
「そうだ。お前は橘花だよ。本当に・・・橘花だ」
木島中将は言う。
・・・え、
なぜ今の答えで私が本当に橘花だと彼が思ったのかは疑問だが、
私は木島中将の言葉で・・・なぜか、少しだけ安心する。
すると木島中将は、目をうるうるさせながら、
「・・・橘花・・・本当にすまなかった。苦しかっただろう。腹が立つ気持ちは分かる。でもな、桜花も俺たちも、どうする事もできなかったんだ。どうか許してくれ」
・・・などと言う。
・・・・・
・・・は?
私は彼が何を言っているのかさっぱり分からないのだが・・・
あ、そういえば私はずっと田岡少尉に銃を向けたままだった事に気付く。
彼女はがたがた震えている。
私はとりあえず、銃をおろして、
「私はべつに、腹を立ててる訳ではありません。状況が掴めてないだけです」
と言う。
しかし銃は仕舞わずそのまま握っている。
すると木島中将は、一瞬目をぱちぱちしてから、
「・・・お前・・・いつから記憶が無いんだ?」
「7月19日艦隊を離れてから、つい数時間前までです」
私が即答すると、木島中将と田岡少尉は目を見合わせて、しばらく思案の表情をする。
・・・・・
・・・いったい・・・何だというのだろう。
どうやら私がいない間に、何か重大な事が行われた事は確かな様だが・・・
いったい、何があったというのだ。
私は、内心焦る気持ちを抑えつつ、なるべく冷静な口調で、
「差し障り無ければ、艦隊の状況を伝えて頂けませんか。あと・・・提督の所在も」
と、いつもどおりな感じで言ったつもりだが・・・
・・・・・
なぜか、二人は黙り込む。
・・・え、
まさか、私に言い辛いような状況になっているのだろうか。
・・・桜花提督は?!
すると木島中将が、
「・・・話せば・・・長くなるな・・・そう長々とここで立ち話できる状況でもないしな。車で話そう」
と言って、私を車の方へ促す。
・・・素直に・・・乗っていいものだろうか。
この奇妙な状況の中、艦隊から離れたこのような場所に突然現れた木島中将・・・
どうにも妙である。
その時、私のやや張り詰めた表情を読み取ったのか、彼は、
「不安なら・・・銃は持ったままでいい。ただ、ここから早く離れないとヤバイんだ。頼むから乗ってくれ」
と言う。
・・・確かに・・・ここにいたら、あの施設の人が追ってくるかもしれない。
木島中将もその事を警戒しているのかと思うが・・・
・・・しかし、
なぜ?
海軍に電算機を提供していた施設の人間から、海軍中将が逃げなければならないのか。
ますます謎である。
ただ今の、全てが分からない状況において他に信じられるものが無いのも事実で。
・・・私は・・・
とりあえず、あたりを警戒しつつ、この白いワゴンに乗る。
運転席には、体の大きな私服の男が座っている。
見るからに軍人。
彼は私を見ると一礼する。
私は、車内全体が見渡せるように、後ろの方の席に座る。
木島中将と田岡少尉を乗せると、車は速やかに走り出す。
しばらく、車内はやや緊張したような雰囲気になる。
その空気を察したのか、木島中将は軽い口調で、
「それにしても橘花、おまえ何だその格好は。風俗嬢みたいだな」
などと言ってケタケタ笑う。
・・・風俗嬢とは・・・
ひどい。
「私も好きでこのような格好をしてるわけではありません。出来ればすぐにでも着替えたいです」
と私が言うと、助手席の田岡少尉が、
「着替えならありますよ」
と言って、なにやらとても大切な宝物でも出すかのように、私の第一種乙装とリボンを取り出す。
ていうか、ここで着替えるわけにも行かないだろうが。
とりあえず、リボンだけ・・・
・・・ん?このリボン・・・
なぜかそこかしこに縫った跡がある。
いったいなぜ・・・このような・・・
・・・そういえば・・・
私は戦闘で大きな損傷を受けた、などとアドルファが言っていたが・・・
いったい・・・何があったのだろう。
私は、
「・・・そろそろ・・・私がここに至るまでの状況の説明をして頂けませんか」
と木島中将に言う。
すると彼は、やや真剣な面持ちになって、ふう、と深く溜め息をしてから、
「・・・そうだな」
と言って、そして、少し間を置いてから、
「じゃあ、・・・橘花が艦隊を離れてからの話をしようか。ただ、これから話す事はあくまで、旗艦参謀部が判断した状況見解だ。実際の所は俺にも・・・疑わしい部分がいくつかある。まあその点は後で話すとして・・・それと・・・たぶん、おまえにとっては、かなりショッキングな話だから・・・落ち着いて聞いてくれよ」
と、なんだか意味深な前置きの後、彼は話しだす。
そしてその話というのが・・・またなんとも妙な話である。
私が艦隊を去った数日後のこと、
なにやら「第0艦隊」という完全電算制御の極秘潜水艦隊が暴走を始め、その討伐のため第1基幹艦隊が派遣されたそうで、その時点では、その第0艦隊に何が搭載されているのかは誰も知らされておらず、なんの疑いも無く、軍令部の指示通りに第0艦隊の司令艦を撃沈し、この討伐作戦は一応成功したそうだが・・・
その後、呉港にて整備中の戦艦飛鳥に、私、橘花が戻ってきたそうで。
それは8月10日の事なのだそうだが・・・
私には全く記憶が無い。
すると木島中将は、
「ああ。記憶が無くて当然だ。だってあの橘花は、偽者だったんだからな」
・・・・な、
偽者?
・・・それはまた・・・昔のスパイ映画の設定みたいな話だが・・・
「・・・で、その偽者とやらは何者だったんです?CIAの諜報員ですか?」
などと私はすこしあきれたように言うと彼は、
「おまえアメリカ映画の見すぎだよっ」
と言ってケタケタ笑うのだが、
その表情はどこか硬い。
そして再び真面目な顔になり、
「あれは軍令部が、橘花に似せて作った人型に橘花の記憶を入れて出来たものらしい」
と彼は言う。
・・・ん?それはつまり・・・
・・・橘花の疑似体に橘花の記憶を入れたものを「偽者」と言うのなら・・・
私も「偽者」なのではないのだろうか。
などと考えると、私は再び不安に落ちていきそうになるが・・・
今はそれを考えている時ではない。
「で、軍令部はなぜ、私の偽者を飛鳥に派遣したんです?」
なるべく落ち着いた口調で私が聞くと、
木島中将は、深刻な顔になり、黙り込む。
そして・・・少し間を置いてから、
「・・・第0艦隊に搭載されていたのがお前、橘花だったって事を、俺たちにバレないようにする為だ。」
・・・・・
・・・な!!
私が・・・第0艦隊に?!
という事は・・・私は、
「・・・俺たちは、お前があれに乗ってるって事を知らずに、撃沈してしまったんだ・・・」
と言って彼はうつむく。
・・・それは・・・
・・・・・
私はしばらく唖然とする。
しばらく黙った後、彼は私に
「・・・俺たちを・・・許せるか」
などと言うのだが・・・
・・・え?
許すも何も・・・
その時の記憶すらない私には全く現実味の無い話なのだが・・・
そもそも木島中将に腹を立てるのも筋違いな話で。
とりあえず私は、なるべく冷静な口調で、
「その件について賠償を求めるべき相手はあなたではありません。話を続けてください」
と言うと、木島中将は目を丸くしてこちらをまじまじと見詰め、
その後、少し目をうるうるさせながら、
「橘花は・・・やさしいんだな」
などと言う。
・・・べつに、やさしさで言ってるわけではないのだが、
どうやら・・・
彼の態度を見ると、この件について、かなり思い悩んでいたらしい。
これまでの口調が重かったのも、どうやらその為の様だが。
・・・まあ、確かに。
知らずとは言え、私を殺してしまったわけだから。
人間的観点で言うと、思い悩んで然るべき状況かと思うが、
私は人間ではない。死の概念も人間のそれとは違う。
・・・ていうか私は、
もっとこの件について感情的になるべきなのだろうか。
ここしばらくいろいろと妙な状況が続いたせいか、
自分の死というものが、なぜか・・・他人事のように感じられる。
・・・・・
・・・他人事?
・・・・・
いや、それよりも、
なぜ私が、その、第0艦隊に乗っていたのか、
そしてその第0艦隊が、なぜ暴走したのか・・・その方が問題である。
「それで、私はなぜ、その第0艦隊に乗って暴走したんです?」
と私が聞くと、
再び真剣な表情になり、話し始める。
「その・・・第0艦隊というのは、最初から司令電算機による完全制御により行動する事を目的に作られた、いわば試験艦隊で、恐らくこれ以前にも、お前や桜花はこれの試験運用の為に、秘密裏に、あの艦に乗せられていたらしい。たぶん今回のもその一環としての運用試験で橘花は第0艦隊に乗せられたのかと思うが・・・問題は、なぜ暴走したのか、という事だ」
・・・いや、以前から私がそんなものに度々乗せられていたという事実も十分問題かと思うが。
私は黙って話を聞く。
すると、彼はまた・・・妙な事を話しだす。
「我々、旗艦参謀部の見解では・・・7月13日に突然飛鳥に来艦したアドルフィーナによって、橘花は意思共有化されて、それが原因で暴走したのだ・・・という事になっている」
・・・は?
・・・アドルフィーナによる・・・意思共有化?
なにやらまた、よく分からない話だが、
木島中将の説明によると、その意思共有化というのは、
端的に説明すると、
そもそも日本の電算機には、ドイツ電算機によって制御されるよう何らかの仕掛けがなされており、
その事を「意思共有化」と言うらしい。
・・・それは・・・
なんとも信じ難い話だが・・・
もしそれが事実であったとすれば・・・恐ろしい事である。
艦隊司令機である我々司令電算機が、他国の制御下に置かれるという事は・・・
・・・・・
・・・いや、そんな話が有り得るだろうか。
私は今一度、
「それは事実なのですか?」
と彼に聞いてみるのだが、
すると彼は・・・真剣な顔のまま、しばらく黙り込む。
そして、
「・・・俺も・・・以前はそれが事実だと思っていた」
と言う。
・・・・・
・・・ますます話が分からないが・・・
とにかく私は、静かに彼の話を聞く。
彼は、眉間にしわを寄せたまま、静かに話し出す。
「しかし・・・どうも腑に落ちないんだ。なんでドイツのやつらは、橘花を暴走させる必要があったんだ? そもそも、故意に暴走させたのなら、何であの後軍令部は、大慌てで橘花の死を隠そうとしたんだ?」
・・・・・
・・・まあ、それはつまり、
第0艦隊の暴走は故意ではなく、プログラム等の人為的ミスが重なった単なる事故で、軍令部はそれを隠蔽しようとしただけだったのでは?
と、言おうと思ったら、
木島中将は、
「・・・考えてみれば・・・艦隊が反乱行動に決起したのも・・・桜花が反乱軍の指揮をする決意をしたのも・・・橘花の死という事実を見せられた後だったんだよな・・・」
・・・と言う。
え?!
艦隊が反乱行動?!
桜花提督が・・・反乱軍の指揮?!
・・・何を言ってるんだこの人は!
私はその点について詳しく聞こうと思ったが、
木島中将は一言・・・また妙な事を言う。
「そう、あいつは・・・山本は、以前、俺に言ったんだ。『身勝手な親心で怪物を作ってしまった』ってな」
・・・山本?
確か、太平洋戦争時に山本とかいう英雄がいたが。
しかしその人は後の大西洋作戦で戦死しているので、同一人物である筈はない。
・・・いや、そんな事より、
「艦隊が反乱行動とは、どういう事ですか」
私はなるべく落ち着いた口調で聞く・・・が、焦りは隠せない。
すると木島中将は、
「まあ焦るな。べつに艦隊が帝都を砲撃したりしてるわけじゃない。ただ、まあ、軍令部の言う事を聞かなくなったってだけでね」
・・・だけって・・・
それは確かに、反乱行動である。
そして木島中将は、私が死んだ後の事を淡々と話し出す。
しかしその内容というのが・・・あまりにも非現実的というか・・・
その話は、桜花提督が反乱軍の指揮を取る決意をしてから、
まだ敵味方あやふやな状態の第8艦隊に単身乗り込んでいって、それを仲間にしてしまったとか、
その後、その、『桜艦隊』に襲い来る数百もの誘導弾を見事迎撃したとか・・・
最初私は、また彼のいつもの冗談話かと思って聞いていたが・・・
どうやらそうではないらしい。
・・・本当に・・・そんなことが行われたのだろうか・・・
私は信じ難い思いを残したまま、
「・・・それで、桜花提督は今も元気に反乱軍の指揮をされているのですか?」
などと聞いてみるのだが、
木島中将は・・・
なぜか暗い表情になる。
・・・え?
・・・まさか、
「桜花提督の身に・・・なにかあったんですか!」
私は強い口調で聞く。
すると木島中将は、
「大丈夫だ。桜花は今も・・・生きている」
と言うが・・・その口調はやや弱い。
そして、
「だが、・・・今は艦隊にはいない。陸軍にいる」
などと言う。
陸軍?
・・・それはまた・・・
「なんで陸軍に?!」
私は驚いて思わず声を荒げる。
「まあそう、怖い顔をするな。そもそも人型電算機開発においては、海軍も陸軍も出元は同じだ。むしろ試行錯誤が多い分、技術的にはやつらの方が進んでいる」
「私は、彼女が今なぜ陸軍にいるのか聞いているのです」
私は間を入れず、重ねて質問すると木島中将は、やや眉をしかめて、
「・・・それがな・・・突然意表を付いて・・・その、人型兵器が飛鳥の甲板に上がってきてな」
「冗談なら後にしてください」
「冗談じゃないって!本当に人型兵器が来たんだ!ほら、写真だってあるぞ!」
木島中将はポケットから写真を取り出す。
その写真には・・・
確かに、なにか・・・手足の付いた、蛙のような機械が飛鳥の甲板に上がっている。
・・・・・
「・・・で、この人型兵器とやらは、なんで飛鳥に上がってきたのですか? 産卵の為ですか」
「だから冗談じゃなくて!本当にコイツのせいでえらい目にあったんだよ!死人が二人も出たんだ!」
・・・な・・・
・・・どうやら、彼は冗談で言ってる訳では無い様だ。
「分かりました。それで、この・・・人型兵器の所属と目的は?」
とりあえず私は真面目に聞く。すると木島中将は、
「おそらくドイツか軍令部か・・・目的はたぶん、桜花の鹵獲、もしくは破壊・・・どっちにしろコイツはもう海の底だからな。詳しくは分からんが・・・コイツは桜花を追いかけるようにプログラムされていた事は確かだ。桜花を脱出筒で発射したら、トチ狂ったみたいにそれを追って海に潜って行った。そこを陸奥の単魚雷で・・・」
「桜花提督を脱出筒で発射?!どういうことですか!」
私は彼の話を遮って声を上げる。
すると木島中将はビクッとしてから申し訳無さそうな顔で、
「や、あの状況ではああするしかなかったんだよ。桜花はもう舞い上がっちまって、飛鳥と共に玉砕するとか言い出すし。あそこで桜花を逃がさなきゃあ、俺たち完全に詰んでたと思うぜ」
・・・・・
・・・・・
私はしばらく沈黙する。
田岡少尉がおびえたような目で私を見る。
「・・・なるほど」
私は静かに話し始める。
「詳細は分かりかねますが、そのお話を聞く限りでは、木島中将のご判断は・・・正しかったと思います」
それを聞いて木島中将は、少し安堵したような表情になる。
が、私は続けて、
「ただ・・・それは8月の24日のお話ですよね。艦隊は・・・提督を陸に揚げたまま、17日間もいったい何をやっていたんです?」
と聞くと、彼は再び眉をしかめて、
「そう言ってくれるな。俺たちも何もしていなかったわけじゃあない。人型兵器を始末した後、すぐに桜花を回収するための部隊を出したが・・・ダメだった。・・・人型電算機を有しない俺たちが、飛鳥の電算機も不調で、その上外部からの通信を遮断された状態で、人型電算機を複数保有する軍令部を相手に戦うのは分が悪すぎる。士気と戦力を維持するだけでも大変だったんだぜ」
といった後、なぜか険しい表情になり、
「いや、むしろ・・・異常だ。ほとんどの奴が、国に家族を残してきているのに・・・普通ああいう状態になったら一人や二人は降参して国に帰ろうとか考えるもんだと思うが・・・取り乱す事も無く、一心に・・・そう、まるで、ひとつの意思を共有してるかのように、みんな妙に落ち着いて・・・今でも、桜花が艦隊に戻ってくると信じている。・・・俺は今、艦隊から離れてみて、つくづくあれは妙な雰囲気だったと感じるよ・・・」
と、言ってから・・・しばらく黙り込む。
・・・なにか、考えているようだが・・・
突然、木島中将は場の空気を変えるかのように、軽い表情になって、
「まあ、そんな事よりだ!、橘花、お前これからどうする?」
・・・・・
・・・は?
突然の妙な質問に、私はしばらく困惑するが、
というか、私はまだまだ聞きたい事があるのだが。
「どうする、と言われましても、未だ状況認識が定かではない私に指揮を仰ぐより、この場は木島中将が指揮をされた方が宜しいかと思いますが」
「そういうことじゃなくて、お前はこれからどうしたいか、って話」
・・・・・
・・・ますます意味が分からない。
「・・・それはつまり、私が反乱軍に加わるかどうか、というお話ですか?」
と、私が聞くと、木島中将は「う〜ん」とうなってから、
「や・・・まあ、それもあるが、や、そうじゃなくて、もっと広い意味でな・・・う〜ん」
などと、わけの分からない事を言った後、
妙に神妙な面持ちになって、
「実はな・・・お前を生き返したって事は・・・艦隊の連中も軍令部の奴らも・・・まだ誰も知らないんだ」
・・・・・
・・・・・
・・・え、
それは・・・いったい・・・
「あの・・・木島中将は今、旗艦参謀部の判断で行動されているのではないのですか?」
と私が聞くと、彼は、
「いんや。たぶん艦隊ではもう、俺は死んだ事になってるんじゃないのかな」
などと言う。
・・・それは・・・
「どういうことですか?」
「まあ・・・連絡機にちょっと細工してな。インドシナでも一回やったよ。仕事サボれて特別手当も付くっていうお得な・・・」
「そういう事を聞いているのではありません」
私が即返すと、木島中将はしばらく黙ってから、
真面目な顔になって、静かに話し始める。
「・・・今、海軍は・・・明らかにヤバイ方向に行ってる。このまま大事にならずに丸く治めるのは・・・今の艦隊の雰囲気を見ると・・・どうにも難しいような気がする。きっと、大きな戦闘になる。しかもその発端には、人型電算機の存在が大きく関わっている・・・お前が艦隊に戻ろうが、軍令部側に付こうが、・・・険しい道になる事は確かだ。・・・それに・・・いや、とにかく今、軍に戻るのは色々とまずいんじゃねえかと思うんだ」
・・・・・
・・・この人は・・・何を言おうとしてるのか・・・
いまいち分からない。
「・・・つまり具体的に、今後私はどこに配備されるべきだと中将は見解されているのですか?」
「だから、そうじゃなくて・・・そうじゃなくてな」
・・・・・
私はただ、首をかしげる。
・・・・・
そして、木島中将は、
また、・・・妙な事を言い出す。
「兵器としてのお前は・・・もう死んだんだ。今後の事は、人として・・・人としてのお前の意思で考えて欲しいんだ。お前はもう・・・自由なんだ」
・・・・・
・・・兵器としての私は死んだ?
・・・人としての意思・・・?
・・・・・
・・・自由・・・
・・・・・
「・・・木島中将・・・」
「なんだ?」
「意味が分かりません」
木島中将は「あた〜」と言って、わざとらしく頭を抱えながらとケタケタ笑う。
「やっぱし、わかんねーか」
と言って、また笑う。
・・・この人は・・・何を言っているのか・・・
私はやや強い口調で、
「私は人ではなくて人型です。そして、戦闘能力がある以上、私は未だ兵器です」
と言うと、木島中将は再び真面目な顔になる。
「お前は・・・兵器として生きる事に、不満は無いのか」
「私は兵器として生まれたのです。私の意思は関係ありません。木島中将は人になりたいと望んだ結果、人として生まれたのですか?人である事に不満を感じたら、人以外の物になる事が出来るのですか?・・・ちなみに、私は人型である事を望んだわけではありませんが、人になる事を望んでいるわけでもありません。私が人型司令電算機であるという事は、私が生まれた時に始まった、ひとつの状況に過ぎないのです」
・・・と、私が言うと・・・
木島中将は、なぜか・・・
少し悲しそうな顔をする。
・・・・・
・・・私は何か、彼を悲しませるような事を言っただろうか・・・
しばらくすると、木島中将は、深くうなずいてから、
「・・・そうか。わかった」
と言って・・・しばらく静かになる。
助手席の田岡少尉が、なんともいえない複雑な表情でこちらを見ている。
・・・・・
なんだろう、この静けさ・・・
・・・・・
・・・・・
すると突然、大きな声で、
「よし!」
と木島中将が叫んだので、ちょっとびっくりする。
そして、
「それじゃあ人型司令電算機、橘花中将に、今後の作戦を考えてもらおうか!」
と、元気な声で言う。
いや、だから、
作戦を立案するには情報が少なすぎると・・・さっきも言った筈だが・・・
・・・ただ、ひとつ、
「私の上官は・・・桜花提督です。作戦計画を立てるなら、先ず、桜花提督に・・・その旨具申すべきです」
と私が言うと、木島中将は、
「・・・それが・・・お前の望みか?」
と言う。
・・・私の・・・望み?
・・・それが、私の意思?
・・・・・
そう。
桜花提督のもとにいることが、
・・・私の望み。
・・・・・
「・・・はい。それが私の望みです」
「よし。わかった。じゃあ、桜花のところへ行こう!」
ふと、窓の外を見ると・・・
東の空が、少し明るい。
・・・夜が明ける・・・
とても長かった・・・夜が明ける。
はじめて見る、陸から昇る朝日。
辺りが明るくなり、私は初めて、巨大な陸に囲まれている事を実感する。
不思議な光景。
その光を浴びて、私は、
なぜか、私の中に溜まっていた緊張感が、少しずつとけていく様な気がする。
・・・・・
・・・すこし・・・ねむくなってきた・・・
・・・・・
・・・・・
・・・いつの間にか、車はどこかの駐車場に止まっている。
となりに木島中将はいない。
・・・?
・・・私は眠っていたのだろうか・・・
しばらくすると車のドアが開いて、木島中将と田岡少尉が入ってくる。
「おお、起きたか。腹減っただろう」
などと言って、木島中将は持ってきた大きなビニール袋を私に渡す。
中には・・・いなり寿司と、お茶、・・・それと・・・
なにか丼物系の弁当、おにぎり各種、あんぱん、牛乳、菓子類各種、
パスタ系の弁当、ホットドック、サラダ系惣菜、・・・その他・・・
・・・・・
・・・彼は・・・私が桜花提督並に食べるとでも思っているのだろうか・・・
でも、確かに空腹ではあるので、
とりあえず、いなり寿司と、お茶だけ・・・
・・・では足りないので、サラダ、パスタ、丼物、ホットドック、おにぎり、あんぱん、牛乳・・・
・・・・・
・・・結構・・・たべてしまった。
すると木島中将がケタケタ笑いながら、
「おおい、大変だ。橘花中将が俺たちのメシまで食っちまったぞ」
と言う。
・・・え!
・・・あ・・・これ、
全員分だったらしい・・・どうりで・・・
そして再び買出しに行く田岡少尉。
・・・なんだか・・・
恥ずかしい。
・・・なんでこんなに食べてしまったんだろう。
これでは桜花提督と大して変わらない・・・
・・・新しい体のせいだろうか。
・・・・・
・・・・・
・・・そして気が付いたら、またウトウトと寝てしまった。
まったく・・・
すっかり弛緩してしまってる私の心が・・・
我ながら情けない!
私はバシバシと自分の頬を叩いて目を覚ます。
そんな状況をニヤニヤと眺めてる木島中将に、私はなるべく張り詰めた言い方で、
「ところで、桜花提督の正確な所在地は分かっているのですか?」
と、聞く。
すると彼は、
「いんや。正確にはわからん」
と言う。
・・・え、
「それでは我々は、いったいどこへ向かっているのですか?」
「ああ、千歳」
・・・千歳?
というと・・・空港がある町・・・程度の事しか未接続の私には分からないが・・・
「つまり・・・民間航空機に乗って、東京の陸軍本部に行く訳ですか?」
私が聞くと、木島中将は、
「お前、陸軍本部に行って直談判でもする気か?そもそも陸軍参謀本部は表面上はこの件に関わってはいないから、直接聞いても何も教えちゃくれないぜ」
「では、どうやって提督を奪取するのですか?」
すると木島中将はケタケタ笑って、
「奪取?・・・お前何か勘違いしてないか? 陸軍は敵じゃないぜ。あいつらはあくまで同業者だ。商売敵になる事はあるが、現状では 敵になる事はないよ。利害が一致してる限りは頼りになる味方だ。・・・ちなみに、桜花の脱出筒は陸軍に奪取されたんじゃなくて、
うちらが陸軍のある部隊に回収を要請したんだぜ。まあ、陸軍本部を通さずに、あくまで非公式に、だが」
・・・・・
・・・それは、知らなかった・・・
・・・いったいどういう組織関係になっているのだろう・・・
「では・・・その『ある部隊』とやらと連絡を取ってはどうですか」
と私が言うと彼は「う〜ん」とうなってから、
「あいつらも非公式で動いてるんだし・・・俺に至っては死んだ事になってるからな。なにぶん・・・非公式同士ってのは一度糸が切れるとなかなか連絡付けるのが難しいんだなこれが」
と言って頭をかく。
要するにそれは・・・八方塞がり状態ではないのか。
「・・・では・・・いったい、我々はなぜ千歳に行くのです?」
「千歳には何がある?」
「空港ですか」
「それと?」
・・・それと・・・?
「・・・千歳・・・ジンギスカン・・・とか?」
「お前それ、桜花の発想じゃねえかっ・・・空軍基地だろ」
・・・ああ、
空軍。
そういえば千歳には、空軍基地がある。
木島中将は、空軍基地に行くつもりなのだろうか。
「つまり我々は、空軍基地に向かっているのですか。その目的は?」
私は聞いてみる。すると彼は、
「あそこの基地司令と俺は・・・まあ、古いトンボ仲間でな」
・・・トンボ仲間?
「昆虫愛好会ですか?」
「ちがうよっ、トンボってのは戦闘機乗りっ」
・・・戦闘機乗り?
「木島中将は、戦闘機乗りだったのですか」
「そうだよ。なんだ、お前も知らなかったのか・・・誰も知らないんだな・・・」
それは・・・意外である。
それにしても・・・なぜ空軍?
「空軍には・・・桜花提督の所在に関する情報があるのですか?」
「さあねえ。ていうか・・・今海で起こってる事もほとんど知らねえんじゃないかな。空軍は最初からずっと蚊帳の外だからな」
・・・それは・・・
・・・・・
行く意味あるのだろうか。
私は何か言おうとするが、その前に木島中将が、
「まあ、そんな顔するなって。いい奴だぜ、あそこの基地司令。それに・・・空軍での人型電算機の導入を誰よりも積極的に考えてる奴だから・・・まあ、俺がそういうふうに仕向けたんだけど・・・行ったらきっと、喜ぶと思うよ。いろんな意味で」
・・・いろんな意味で・・・とは?
・・・・・
・・・なんだか・・・
ますます行く気がしないが・・・
大丈夫なのだろうか。
木島中将の事だから、ただ旧友と雑談をするために行く訳ではないとは思うが・・・。
車は、川沿いの道をひたすら進む。
景色は次第に、山間から平原へ、
木々は少なくなり、どこまでも畑が広がる。
私は暫し時を忘れて・・・景色を眺めていたりする。
どれも初めて見るものばかり・・・
今までの私の生活空間が如何に限定されたものだったのか・・・よく分かる。
そして、景色は徐々に建物が多くなり、千歳の住宅街に入る。
すると前方に・・・
戦車?!
・・・戦車が住宅街を走っている。
私は一瞬驚くが、木島中将は至って平然として、
「この辺には陸軍の駐屯地もあるからねえ」
などと言う。
戦車はガタガタと音を立てて、横を通り過ぎて行く。
戦略情報としては末端の一単位でしかない戦車だが、間近で見ると・・・
さすがに大きい。
私は軍事施設が近くにあることを肌で感じ、やや緊張してくる。
・・・そういえば・・・
この格好・・・
「どこか、着替える場所は無いでしょうか」
私は田岡少尉に言う。
車はしばらく町の中を廻った後、どこかの公園で停まる。
なんだかあまり気が進まないが、そこの比較的きれいな公衆トイレで、私は第一種乙装に着替える。
それにしてもこの、ひらひらした黒い服は・・・いろいろと小細工してあって脱ぐのも一苦労である。
私の即応能力を下げる目論見だろうか。
やっとの思いで着替え終わったら、背中部分にファスナーを発見。
どうやらこれを下ろせばすぐに脱げるらしい。
・・・まったく・・・忌々しい。
私はトイレを出たらすぐに、このひらひらした黒い服を捨ててしまおうかと思ったが、
なぜか田岡少尉が丁寧にたたんで大事そうに鞄の中に仕舞う。
そして再び車は走り出す。
しばらくあまり変哲の無い千歳の町を走ると、突然、視界が大きく開ける。
滑走路が見える。
空軍、千歳基地。
どうやらすぐ近くに民間の空港があるらしく、旅客機が引切り無しに飛んでいるのが見える。
しかし基地飛行場の方はというと至って穏やかで、向こうの方に練習機らしいものが幾つか駐機してるのが見えるのみである。
静かである。
海の彼方では艦隊が反乱行動を起こしているというのに。
基地のゲートは滑走路の端の方にあるらしく、そこからさらにしばらく走る。
そしてゲートに到着。
ここも至って平穏。
車は一旦ゲート前で止められるが、顔見知りなのか前もって連絡してあったのか、木島中将が車から顔を出すと、なぜかすんなり中に入ることが出来た。
こんなに簡単に入ってしまって大丈夫なのだろうか・・・
ゲートを抜けてすぐの場所は、よく手入れをされた公園のようになっていて、昔の軍用機が複数固定展示されている。
平和である。
内地の空軍基地というのはどこもこういう感じなのだろうか。
基地施設はかなり広いらしく、いくつかの建物の横を通り過ぎた後、その中でも割合立派な司令部の様な建物の前の駐車場に車は止まる。
すると木島中将は、
「ちょっとここで待ってて」
と言って車を出て、その司令部のような建物の中に、一人で入っていった。
・・・・・
・・・私は少し心配になって、あたりをきょろきょろと見回してみるが・・・
やはり、至って平穏。
しばらくすると建物から、木島中将と空軍の軍服を着た年配の男が三人ほど、
なんだかやたら楽しそうに会話しながら出てくる。
彼らはそのままこちらに近付いてきて、車の前まで来ると、なにか、妙にキラキラした目で車内を覗き込む。
・・・なに?
木島中将がニッと私に笑いかけてから車のドアを開けると、空軍の三人は敬礼・・・せずに、帽子を取って、ぺこりとお辞儀する。
そして、その中の一人が、
「千歳基地司令、中島空軍少将であります!この度は遠路御来訪頂き、感激至極であります!閣下!」
と言う。
どうやら・・・丸っこくて小柄なこの、中島という男が、ここの基地司令らしい。
・・・なんだかよく分からないが・・・
何も返事しないのもなんなので、とりあえず私は車から出て、
「橘花海軍中将です。はじめまして」
などと言っておく。
すると空軍の三人は「おお〜」などと言って、なにか、珍しいものを見るかのような目でまじまじと私を見る。
私は少し困惑を示す目で木島中将の方を見ると、彼は私の視線に返事するかのように、やや申し訳無さそうに少し笑いながら二回ほどうなずく。
・・・・・
・・・まあ、なんとなくこういう雰囲気になるような気はしていたが・・・
注目されると嬉しくなる桜花提督の性格がうらやましい。
やや間を置いてから、基地司令の中島少将が、
「ささ!ここで立ち話もなんです。中へお入りください!」
と、人のいい笑顔で私を建物の方へ促す。
とりあえず、まあ・・・付いていくが・・・
・・・大丈夫なんだろうか・・・
私の後を、木島中将と、なにかやたらと大きなキャスター付き旅行トランクのようなものを引っ張りながら、田岡少尉が付いてくる。
中島基地司令は、そのまま建物の正面入り口へは向かわず、なぜか裏の方の用務員入り口(?)の方へ向かって、
「人目に付くとアレなんで、失礼ながら、こちらからお入りください」
と、ニコニコしながら言う。
・・・まあ、確かに・・・あまり目立つべきではない現状ではあるが・・・
・・・なにか、あやしい。
隠密行動というよりは、なにか、お忍び旅行のような雰囲気である。
・・・木島中将は、いったい彼らとどういう交渉をしたのか。
そして建物の中に入る。
しばらく薄暗い廊下を進んで、応接室のような場所に入る。
そこで我々はソファーに座らされ、木島中将と田岡少尉にはお茶、私にはなぜかクリームソーダ(さくらんぼ付き)が出される。
・・・これは・・・
ここでの私の印象は、どうにも少女らしい。
木島中将は相変わらず少し申し訳無さそうにニヤニヤしながら、
「遠慮せずに食え。大好きだろ?」
などと言うが・・・
私がいつクリームソーダが大好きだと言った?
でも、まあ・・・嫌いでもないから・・・
たべるけど。
中島司令はとても嬉しそうである。
しばらくすると、私が食べるのを見て満足したのか中島司令は、
「それでは、私は用意がありますので・・・少々こちらでお待ちください」
と言って部屋を出て行く。
私は彼が出て行くのを見届けてからクリームソーダを置いて、
「・・・で、そろそろ私をここに連れて来た理由をお聞かせ頂けませんか」
と、木島中将に聞いてみる。
すると彼は、
「うん。まあ・・・あの中島って男はな、結構本気で空軍での人型電算機の戦術使用を考えていてな。ただ、なにせ予算が付かないから海陸軍なんかと比べると、ほとんど趣味の範囲なんだが。それでもまあ、見様見真似で接続機構の構成までは出来たから、いつかお忍びで橘花を連れて来て欲しいって前々から言ってたんだよな。・・・桜花じゃなくて橘花をチョイスするあたりが中々いい趣味して・・・」
「要するに個人的趣味なんですね。私は趣味に付き合う気はありません。失礼します」
私は木島中将の言葉を遮って、ここを立ち去ろうとするが、
「まあ待てまあ待て! 話を最後まで聞け」
と彼は言って、私を再び座らせる。
そして木島中将はやや真面目な顔になって、
「海の向こうで何が起きていようが、今はあくまで平時だ。当然、日本の上空を飛ぶ航空機はいつも通りの航空管制をされている。民間機も軍用機も・・・当然、海軍機も陸軍機も、その目的が何であれ、いつも通りの顔をして航空管制を受けている。だって今は平時なんだからな・・・ちなみに、樺太から津軽海峡までの空域においての航空管制情報は、いろいろな管轄的事情から、一旦ここ千歳基地の防空指揮所に集約されてから運輸省航空管制部に送られている・・・つまり・・・」
そこから彼は小声になって、
「・・・なんにも状況を知らねえで平和顔してる、あの中島のオッサンが、北海道全域の航空情報を握ってるわけだ」
と言う。
・・・・・
・・・つまり・・・
「あの丸っこい男を何とかして、ここの防空指揮所から情報を抜き取ろうという事ですか?」
「や、抜き取るっていうんじゃなくてさ、ちょっと見せてもらうって感じね。・・・蚊帳の外の空軍から全体を見渡せるんだ。これほど安全な情報収集は無いだろ?」
・・・それはまた・・・なんとも・・・
海軍参謀が空軍でスパイ活動など、前代未聞である。
しかし、北海道の航空情報が、桜花提督の所在と関係あるのだろうか。
「・・・つまり木島中将は・・・桜花提督が今、北海道にいて、航空機で移動しているとお考えなのですか?」
と私が聞くと、彼は、
「・・・ああ。少なくとも、昨日の段階では・・・桜花は小樽にいたらしい。まあ、これは単なるネット情報だから確実ではないんだが・・・」
・・・小樽・・・第7機動艦隊の母港である。
しかしネット情報とはまた・・・信用できるのだろうか・・・
「つまり我々はその、ネット情報だけを頼りにここまで来たと言うわけですか」
「いやいや。俺は最初から、いるとすれば北海道か台湾かのどっちかだと予想してたぜ。それに・・・陸軍で唯一司令電算対応した船が今北海道に・・・」
と、木島中将が言いかけたところで、中島司令が部屋に入ってきて、
「お待たせいたしました。それでは閣下、こちらへいらしてください」
と言って招くので、我々は再びこの丸っこい男に付いて行く。
そして一旦この建物の外に出た後、空軍のマイクロバスに乗り込む。
・・・いったいどこへ行くのだろう・・・
マイクロバスは、基地施設から出るわけでは無い様だが・・・
意外と長い時間走る。
木島中将もなんだか心配になってきたのか、
「おい中島、地下の防空指揮所に行くんじゃないのか?」
と聞くが、中島司令は相変わらず嬉しそうにニコニコしながら、
「違いますよ」
とだけ言う。
・・・・・
・・・違うって・・・それじゃあ・・・
「ここに来た意味が無いのでは?」
私は小声で木島中将に言うと彼は・・・首を傾げるだけである。
・・・ええと・・・
かなり早い段階からこのスパイ大作戦は失敗の様相を見せ始めたが・・・
そしてなぜか、マイクロバスはどこかの掩体壕の前で止まる。
「着きました。ここです」
中島司令が言うと、我々はマイクロバスから降ろされる。
・・・いったいここに・・・何があるというのか・・・
掩体壕の中には・・・
57式局地戦闘機・飛電改。いや、空軍仕様の試製甲戦・飛電・・・改四?
・・・・・
・・・なにか、嫌な予感がする。
すると中島司令は、目をキラキラ輝かせながら、
「我々は機体整備という名目で中島重工と協力して自主的に空中電算司令機を開発しているのですが、本日、橘花中将に御協力頂き、その有用性を実証できれば・・・これを上層部に提示して、正式に空軍式人型司令電算機の開発を打診しようと思っております」
・・・などと言う。
・・・・・
私は一瞬、何を言ってるのか理解できなかったが・・・
つまり・・・ええと、
・・・これに乗れと?
そんな無茶な・・・
だいたい、前線兵器である戦闘機を、後方にいるべき司令機に改造してる段階で180度間違っている。
私はややあきれたような目で木島中将を見るが・・・
・・・!!
木島中将の目が・・・キラキラ輝いている!
「中島!おまえ・・・やるじゃねえか!」
・・・・・
・・・ええと、
何この空気・・・
私は全否定を込めた目で木島中将を見ながら咳払いしてみたりするが、
彼は相変わらず、少年のまなざしで中島司令の話に聞き入っている。
・・・これはどうしようもない。
そして中島司令は意気揚々と、
司令電算装置を戦闘機に搭載出来るサイズまで小型化するためにいろいろ工夫しただとか、
人型電算機に負担をかけないように安定性を高めて、旅客機並みの乗り心地を実現しただとか、
そういう感じのことを延々、目をキラキラさせながら説明する。
・・・それはそれは大変だったようだが・・・
私はとりあえず、一言、
「なぜ戦闘機なんですか?」
と聞いてみると、
・・・・・
・・・静かになった。
・・・・・
ええと・・・
すると中島司令の後ろから、中島重工のロゴ入り作業着を着た男が出てきて、 この気まずい空気を打ち消すように、
「上申いたします閣下! 戦闘機であれば、危険な状況でも優れた機動性で回避することが出来ます!」
などと言うが、私は即、
「危険な状況にならないように邀撃するのが戦闘機の仕事です。優れた機動性は司令部を載せて逃げ回る為にあるのではありません」
と言うと、
またもう一人、ロゴ入り作業着を着た男が出てきて、
「上申いたします閣下! こ、この飛電改四は超音速巡航が可能であります!従って如何なる場合でも適所に迅速に移動し司令を行う事が出来ます!」
「そういう場合は中継機を適所に配置すれば済む事です。わざわざ司令機が超音速で移動する必要はありません」
私が即返すと・・・
・・・・・
・・・もう、ロゴ男は出て来なくなった。
・・・・・
・・・まったく・・・
畑違いの司令部要員に論破されてる段階で終わっている。
官民共同でこんな無駄なものに金をかけているとは・・・
空軍はよっぽど暇らしい。
すると木島中将が、
「橘花・・・ちょっと、来い」
と言って、私をマイクロバスの裏につれて行く。
そして、ヒソヒソ声で私に、
「おまえ、容赦なさすぎだぞ。少しは・・・付き合いってものも大事にしろよ」
などと言うので、私は、
「趣味に付き合ってる暇が我々にはあるのですか。だいたいあれはなんなんです、どう見ても無用の長物ではないですか」
と言うと、
木島中将はしばらく「う〜ん」とうなってから、
「・・・一応、裏事情ってやつを話しておくとな・・・あの飛電改四、つまり飛電改の甲戦化改修は、中島重工にとっては二十年振りの戦闘機の仕事だから張り切ってやってたんだが・・・もともと乙戦だった飛電を甲戦に改造するのは意外と手間が掛かるし、他企業が提示した試製甲戦闘機が意外と高性能だったり、その他いろいろな事情で、今現在、制式化は難しい状況になっているんだな」
と・・・なにやらわけの分からない事を言い始める。
「それは、今私が置かれているこの状況に関係のあるお話ですか?」
私が聞くと彼は、
「・・・いや、だからさ・・・ここでその飛電改四を、今国民的人気の人型電算機対応に改造して、それをお上にアピールしとけば・・・いろいろ有利になるだろ?」
・・・・・
・・・は?!
「つまり、企業の宣伝に私を利用するつもりなんですか!」
私は声を荒げる。
すると木島中将はビクッっとしてから、
「いや、宣伝っていうかさ・・・ちょこっと乗って接続してやるだけであいつらも満足するから・・・」
「断固拒否します!そもそも、桜花提督を捜索するのが我々の最優先事項ではなかったのですか!こんな所で道草してる間に、桜花提督の身に何かあったらどうするんですか!」
私は思わず大声で叫ぶと・・・
その声を聞いて驚いたのか、中島司令がこちらに寄ってきて、
「・・・桜花提督の身に・・・なにかあったのですか?」
という。
木島中将は「あいたたた」と言って気まずそうな顔をするが、
中島司令は深刻な顔で、
「・・・ここ数日の陸海軍機の動きがどうにも妙だとは思っていたのですが・・・やはり・・・海軍で何かあったのですね」
と言う。
すると木島中将は、「ふう」と溜め息をしてから、
「・・・そうだよ。実は・・・艦隊規模で、結構ヤバイ状態だ。・・・あまり詳しくは話せないが・・・今、俺たちは、北海道のどこかにいる、桜花を探している」
と、あまりにも素直に衝撃の事実を明かしてしまう木島中将だが、
中島司令は特に驚いた表情は見せずに、
「やはりそうでしたか」
と言う。そして、
「ここ数日、陸海軍が妙な動きをするので、航空管制情報を観察していたのですが・・・昨日一時的にネットで出回った桜花提督目撃情報・・・もちろんネット情報だけでは単なるガセネタという事で終わるところでしたが・・・我々はその直後、海軍小樽基地内で爆発かと思われる赤外線反応と、そこから飛び立つ陸軍機を捕捉したのです」
・・・爆発?
そこから飛び立つ陸軍機?
いったい何が・・・
「その陸軍機は、その後どこに向かったのですか?」
私が聞くと、中島司令は、
「はい閣下、こちらでその当時の詳しい航空管制情報を見ることができます。どうぞ」
と言って招くので、私はそこへ行き、
ハシゴを上り座席に座る。そして座席の後ろから接続コードを・・・
・・・・・
・・・!!
戦闘機に・・・乗せられてる!
すると後ろの方で、
「始動ヨーイ!!」
などと誰かが叫ぶ。
な!!
私は大慌てで「待ってください!」と叫ぶが、
その声は、始動モーターのけたたましい音にかき消される。
そして徐々にその音は、タービンの回転する甲高い轟音となる。
地の底から湧き上がって来るような振動。
渦巻く熱風があたりの風景を激しく揺らす。
このまま・・・空に?!
私はとても恐ろしくなって、身動きも出来ないまま、
「おろしてください!おろしてください!」
と叫んだりするが、もうなにも・・・轟音が・・・
ああああ
・・・すると突然、耳元で木島中将が、
「飛ばないから落ち着け!」
と言って、私の頭にヘッドホンを付ける。
・・・ああ、
幾分音が・・・遠くなった。
私は少し冷静になって、
「これはどういうことですか」
と聞くと、ヘッドホンから中島司令の声が、
「橘花中将閣下、聞こえますか?」
と言うので、私は再び、
「これはどういうことですか、説明してください」
と言う。すると彼は、
「は、閣下、この飛電改四の司令電算機は発動機から電力が供給されますので、発動機を始動しなければ作動しません」
などと言う。
・・・これは、なんという・・・非効率。
外部から電力を供給するとか、そういう発想は出来なかったのだろうか。
しばらくすると操縦席まで電力が供給されてきたのか、あたりの電子版がピカピカと光り始める。
するとヘッドホンから、中島司令が、
「閣下、電算機が作動しました。もう接続しても結構です」
と言うので、私は接続プラグを耳の後ろに・・・
・・・接続しても大丈夫なのだろうか・・・
なんだかとても不安だが。
私はしばらく接続を躊躇していると、木島中将が、
「さっき田岡も確認したから。大丈夫だ」
などと言うが・・・
・・・本当に大丈夫なのだろうか。
・・・まあ、これ以上ここで無駄な時間を浪費するわけにも行かないので・・・
仕方がないか・・・
私は恐る恐る、接続する。
・・・すると・・・
しばらくなにやら、ノイズのようなもの。
そして徐々にノイズは薄れ、北海道空域の現在の航空管制情報が入ってきた。
飛鳥の司令電算機と比べると、ずいぶん規模の小さいものだが・・・
これはたぶん、基地司令部の管制情報がそのまま入ってきてるらしい。
しかし、規格が違うためか、なんなのか・・・ここから情報の制御ができない。
これでは司令機というより、司令端末機ではないか。
私は、桜花提督を乗せたと思われるその陸軍機の行き先が知りたいだけなのに、
なんともまどろっこしい。
これならこんなものに接続してないで直接基地管制で情報を入手した方が早い。
もう彼らの望みどおり戦闘機に乗ったのだから、聞けば何か教えてくれるだろう。
私はさっさと接続を解除しようと思ったが・・・
・・・その時、突然、
「どうも〜。橘花さん、お久しぶり」
と・・・聞き覚えのある声、というより音声情報が入ってくる。
この声は・・・
たしか・・・・
・・・・・
「・・・シノ中将?」
私が聞くと、その声は、
「そうです。シノです。お元気でしたか?」
と、答える。
・・・・・・
・・・これはいったい・・・どこから?
空軍の管制情報に、なぜ陸軍のシノ中将が浸入しているのかよく分からないが、
いや、そんな事より、
もしかしたら、彼女は・・・桜花提督の近くにいるのかもしれない。
とりあえず私は、
「シノ中将、今どこにおられるのですか?」
と聞いてみる。すると彼女は、
「ここですよ、ここ」
と言う。
・・・ここ?
訳が分からない。
それとも、居場所を的確に知られたくない事情でもあるのだろうか。
「あなたが現在いる位置を聞いているのです。『ここ』では分かりません」
と、私はやや強い口調で聞いてみると、彼女は
「だから・・・ここ、なんですけどね・・・的確に言うと、あなたの1,5mほど後ろです」
・・・・・
・・・?
私は振り返る。
すると・・・
戦闘機の後部座席の位置に、なにか・・・円筒状の給湯器・・・
・・・!
シノ缶?!
「あなた、いったいここで何をやっているんですか!」
私は思わず口頭で叫ぶが、
彼女は至って淡々と接続通信で、
「私は空軍の航空管制情報を入手する為に以前からここ千歳基地に潜入していたのですが、この程、不覚にも・・・見付かってしまいましてね。それで、私の諜報活動を上層部に報告しないという条件で、ここの戦闘機開発のお手伝いをしているのです。ええ。今ではお手伝いというより、すっかり機体の一部になってしまいましたが」
と言って、彼女はぽりぽりと頭をかくような仕草をする。
・・・・・
・・・この給湯器は・・・
冗談・・・のつもりなのだろうか・・・
訳が分からないが、とりあえず、
「・・・あなたは、どこにでもいるんですね」
「それは褒め言葉と受け取って良いのでしょうかね」
木島中将はケタケタ笑いながら、
「おまえ、こんなところにいたのか!」
と・・・まるでシノ中将がこの基地のどこかにいる事を予測していたかのように言うが、
・・・知っていたのだろうか。
まあ、そんな事より、
陸軍中将である彼女なら、桜花提督の居場所を知っているはずである。
私はとりあえず、逸る気持ちを覚られぬように落ち着いた口調で、
「シノ中将、桜花提督がどこにいるのか、御存知ですよね」
と、聞いてみるが・・・
彼女は一瞬考えてから、
「・・・え?・・・桜花さんもここに来ていらっしゃってるのですか?」
などと、頓珍漢な事を言い出す。
なにを言っている?
この給湯器は・・・ふざけてるのだろうか。
「私はここでこれ以上時間を浪費するつもりはありません。二度同じ質問をさせないで下さい」
と、私はやや強い口調で言うと、彼女は・・・
しばらく考え込むような仕草をしてから、
「・・・もしかして・・・桜花提督の身に、何かあったのですか?」
などと言う。
・・・まさか・・・
彼女は本当に何も知らないのだろうか。
それとも誤魔化してるつもりなのだろうか。
私はもう一度同じ質問をしようとしたが、その前に彼女は、
「橘花さん、私は端末電算機なので、鹵獲された場合を想定して基本的にその任務を遂行する上で必要な限定的戦術情報しか挿入されていないのです。従って、現在の桜花さんの正確な所在も分かりません・・・お役に立てなくて申し訳ないですが」
と言う。
・・・やはり・・・
飛行機の部品にされるような電算機が、それほど重要な情報を持っているはずも無いか・・・
私はやや落胆するが、そのあと彼女は、
「しかし、海軍小樽基地であの陸軍機が桜花提督を乗せたのだとすると、現在彼女は、苫小牧港に停泊中の揚陸指揮艦『坂東丸』にいらっしゃると考えるのが自然でしょうね。私の本体もそこにいるみたいですし」
などと言う。
なぜそれを先に言わない。
「では、その坂東丸とやらと連絡を取って頂いて宜しいでしょうか」
私が言うと彼女は・・・またしばらく考え込んでから、
「・・・私も、そうしたいとは思っているのですが・・・妙な事に昨日あたりから坂東丸と通信が出来ない状態が続いているのです。停泊中なので隠密行動をしている訳では無いと思うのですが・・・まるで局所的通信妨害を受けているかのようです。しかも、港の周りには、海軍第7艦隊の艦艇が複数・・・この状況だけ見ると、坂東丸を敵艦に見立てた陸海軍合同演習の様にも見えますが・・・御存知ですか?」
・・・!
それは・・・たぶん、
・・・演習ではない。
しかも、民間港で通信妨害などという荒業を行っているのだとすると、
・・・かなり逼迫した状況なのではないか・・・
・・・・・
・・・よりによって第7艦隊の行動海域にある港で水上艦艇に逃げ込むとは・・・
陸軍はよっぽど馬鹿なのか、それとも止むを得ない事情があるのか。
まさか、この状況で桜花提督の洋上司令能力をアテにしてるのだろうか。
だとすると、とんでもない素人判断だが・・・
・・・もし、
桜花提督の司令能力が今尚維持されてると仮定して・・・
この状況で、彼女なら・・・どうするだろうか・・・
・・・・・
・・・どうにせよ、
どうしようもない状況である事には変わりが無い。
せめて私がそれなりの戦力を動かせる位置にいれば・・・
・・・いや、
戦力なら・・・
・・・・・
「ところで・・・この飛電改四は、空中司令機としてどの程度使い物になるのですか?」
と私が聞くと、即座に中島司令が、
「もちろん完璧です!その性能は私が保証します!」
と言うが、
その直後シノ中将が中島司令に聞こえないように接続通信で、
「・・・まあ、現在の性能なら、一括統制できるのはせいぜい20機ほどでしょうか。はっきり言って、高価な戦略型電算司令機を載せる意味はほとんどありません。これなら普通に人間の航空指揮官を乗せるのと大して違いありません」
・・・20機。
確かに、その程度ならわざわざ人型電算機を乗せる必要性はほとんど無いが・・・
しかし、現状において、20機を一括に動かすことが出来るのなら、
・・・いや、それでも、
第7機動艦隊とまともに対峙して航空優勢を保つのは難しいが、
あくまで平時である現状においては・・・
・・・使えるかもしれない。
彼らも、蚊帳の外にいる空軍を、わざわざ巻き込むような真似は避けたいところだろう。
「現在この基地で稼動状態にある作戦機の情報を頂く事は出来ますか?」
と私は接続通信でシノ中将に聞いてみると、彼女は、
「出来ますよ」
と言って、接続通信で私の頭脳に千歳基地の戦力情報を送ってくる。
・・・ていうか、
空軍の戦力情報を空軍基地内で陸軍電算機がいとも簡単に海軍電算機に明け渡すという、奇妙な事が行われてるわけだが・・・
なんだか本気でここの管理体制が心配になってきた。
続いて私は、
「で、・・・旅客機並みの乗り心地というのは、本当ですか?」
と聞いてみると、再び中島司令が、
「もちろんです!私が保証します!」
と言った後、シノ中将が再び接続通信で、
「旅客機並みというのは大げさですが、まあ、空戦機動を行わなければ、空母で運用されてる連絡機よりは良いと思います。ええ。機体制御は私がやりますんで。その辺は保証しますよ」
と言った後、なぜか彼女は少し身を乗り出して、
「橘花さん・・・空はとてもきれいですよ☆ ちょっと飛んでみますか?」
と・・・目をキラキラさせながら言う。
・・・な、
・・・なんだか・・・
どうにも、のせられてる感が否めないが・・・
私は少し考えるような仕草をしてから、
「それなら・・・少し、飛んでみてもいいかもしれません」
相変わらずの轟音と、その上ヘッドホンをつけているので周りの雰囲気は分からないが、 どうやらロゴ男たちは大喜びしてるみたいである。 中島司令も喜んでいるようだが、しかし直後、何かを悟ったのか、やや思案の表情になる。 ・・・まあ、これまでの状況を見ていれば、私が単なる好意で申し出ている訳ではないという事はなんとなく察しは付くだろうが・・・ とりあえず私は、現在稼動状態にあるこの基地の戦力を見てみる。 ・・・・・ ・・・これは・・・ 即応体制の飛電2機以外は、ほとんどが戦力にならない初等練習機ばかりである。 なるほど。 回りを海軍に護られた本土の空軍基地というのは、こういう位置付けなのか。 ここが緊張感の無い雰囲気になるのも納得ができる。 しかし・・・これはどうしたものか・・・ ・・・・・ 現在私の置かれている状況を考えると、 現在の海軍の状況を秘匿とした上で、あくまでこの飛電改四の運用試験という名目で部隊を動かす方が安全であると言えるが、 動かせるのが練習機ばかりでは話にならない。 ・・・ここは・・・ ある程度の情報漏洩を覚悟した上で、 彼の協力を得るしかないだろうか・・・ 私はなるべく意識して神妙な面持ちになり、 「中島司令、折り入って・・・お話したいことがあります。秘匿回線でお願いできますか?」 と言うと、 彼は何を思ったのか、驚いたような照れたような・・・なんともいえないうれしそうな表情になり、 「は!秘匿回線に切り替えます!・・・あ、はい!切り替えました!」 と言う。 ・・・なにか勘違いしてるような気もしないでもないが・・・ とりあえず私は神妙な表情のまま、 「・・・現在・・・私がここに存在する事は極秘とせねばならない事情がありますので、本日より一週間はそれを外部には伏せて頂きたいのですが、その後は、私の電算データや・・・写真やら動画やらを、その・・・戦闘機開発運営の為に、如何様にも使用してくださって構いません。・・・ただ・・・ひとつお願いがあるのです」 と言ってから、私は戦力見積情報を中島司令の手前にあるモニターに送り、 「そちらに示した戦力を、今すぐにお借りしたいのです」 と言う。 すると・・・中島司令の顔が一瞬固まる。 「・・・あの、閣下・・・これだけの戦力を、今すぐ・・・ですか?その・・・時間的猶予は如何ほど・・・」 「可及的速やかにで結構です。しかし、態勢完了までに一時間以上要した場合、数百人規模の犠牲者が出る可能性があります」 などと言ってみる。 ・・・当然、最後の一言は、飽くまで可能性の話なのだが・・・ 効果はあったらしく、中島司令の顔が程よく青ざめる。 そして、 「了解です。しょ、少々お待ちください」 などと言って彼は、付近の整備士たちに何か指示を出してから、どこかへ電話をする。 指示を受けた整備士たちは一瞬妙な顔をするが、しばらくの後、飛電改四から試験飛行用の模擬弾が取り外され、実弾が搭載される。 そして前方の火器管制モニターから「模擬」の文字が消え「63中×2、57短×2」に置き換わる。 それを見て、何かただ事ではない雰囲気を察したのか、後席のシノ中将が、 「・・・実弾?・・・橘花さん、これはどういう事ですか?」 などと言ってくるが、それと同時に中島司令が、 「即応で2機、5分以内にさらに4機が上がれます!電子戦換装機は・・・最初の2機が10分です!」 と、息を切らしながら言う。 「結構です。それでは、即応の2機を発進させて下さい。私はその後上がります。機体から離れてください」 と、私が言うと・・・ そばでずっとこの状況を黙って見ていた木島中将が、 なんとなく悲しげな表情で、一言、 「・・・橘花よ・・・無茶はするなよ」 と言って、静かにはしごを降りていく。 ・・・・・ ・・・なぜか・・・ 木島中将のその言葉が、妙に重く感じる。 ・・・・・ ・・・私は勢いで、状況をここまで進めてしまったが・・・ 深く青いあの空の向こうは・・・おそらく、戦場になる。 ・・・・・ その時一瞬、空の深さに妙な怖さを感じるが・・・ ・・・躊躇している時間は無い。 私は、彼女のもとに行かなければならない。 風防がゆっくりと降りてきて、閉まる。 機内は・・・まるで今までの状況が嘘のように・・・静寂。 かなり高度に密閉されているらしい。 そして後席のシノ中将が、 「どうやら状況説明を頂く時間も無い状況のようですね・・・とりあえず、滑走路に向かいますか」 と接続通信で私に言いながら、口頭無線で基地管制とやり取りをしている。 考えてみれば・・・私はこの給湯器にしばらく命を預ける事になるのか・・・ とりあえず私は、やや丁寧な口調で、 「お願いします。シノ中将・・・閣下」 と言うと、 ・・・機体はゆっくりと進み出す。 状況を何も知らないロゴ男たちは、もう大喜びで機に手を振っているが・・・ 中島司令と木島中将は・・・複雑な表情でこちらを見ながら、 ただ黙って、敬礼をする。 私も静かに・・・
敬礼する。
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