皇紀2666年 9月12日



・・・・・
・・・ずっと昔・・・
寂しげに去っていく、後ろ姿を覚えている。
まだ幼かった私は、お父さんに手を引かれながら、それを見た。
それが私の、一番古い記憶。
・・・今思えば、あれが・・・
・・・「本当のお父さん」だったのかもしれない。
病院のベッドに横になったまま、私はそんな事を、ぼんやりと考えている。


 昨日ミヨちゃんが、目をキラキラさせて「流れ星に3回願い事を言えば願いがかなう」って言うの。
ミヨちゃんって・・・そういう子よね。
ロマンチックっていうか。うん。
でもそんな、ね。おとぎ話じゃないんだから。
そうそう都合よく願いがかなうもんじゃ無いよ。
なんて、内心バカにしながらも、なぜか昨日の夜は、ずっと夜空を眺めていて。
今日はとても眠い。
それで、一時間目はほとんど・・・居眠りしてたのかな?
授業の内容を全く覚えてない。
二時間目あたりから頭はしゃきっとしてきたんだけど、
三時間目が終わったあたりから・・・またいつもの・・・
・・・吐き気。
そしてまた、頭がくらくらしてきて、今日も保健室。
最近、こんなのばっかり。
薬を飲んでしばらく横になってたら、だんだん調子が良くなってきたので、
午後の授業はしっかり出ようと思ったんだけど、
なぜか今日は・・・
お父さんが学校に迎えに来た。
・・・え?
仕事はどうしたの?
お父さんはニタニタ笑って「今日は休み」なんて言うけど、
・・・たぶん嘘。
だって、目がうるうるしてるもの。
・・・きっと、そうなんだ・・・
私の病気のせいね。
そして今日は学校を早退して、そのまま病院へ。
大きな病院。
いつも人が・・・ほとんどいない、大きな病院。


・・・私は・・・目覚まし時計の音で目覚める。
いや、これは・・・目覚まし時計じゃなくて・・・
・・・心電図?・・・の音?
なにこれ。
私の体に、コードがたくさん付けられている。
まるで救急患者みたい。
・・・これはまた・・・お父さんのたちの悪い冗談かと思ったけど・・・
どうやら違うみたい。
今までに見たことも無いくらい・・・お父さんの表情は暗く、深刻。
じっと、私を見ている。
・・・・・
・・・そうか・・・
なんとなく、そんな気はしていたけど・・・
・・・私は・・・
・・・・・
その時、お父さんは突然、妙な事を言う。
「お前の・・・本当のお父さんに会いたいか?」
・・・・・
・・・え?
・・・本当の・・・お父さん?
・・・・・
・・・いきなり・・・何を言い出すかと思えば・・・
べつに今さら・・・会いたくなんかない。
私を捨てたお父さんでしょ?
「さくら、それは違うぞ。軍からお前を隠す為に、俺に預けたんだ。海軍の未来よりも、お前の命を選んだんだ。海軍を心より想っているあいつにとって、それは苦汁の決断だった」
・・・その話、何度も聞いたよ。
この国が平和でいられるのも、海軍が命懸けで護っているからだって。
・・・何度も聞いたよ。
この国を護る為に、たくさんの兵隊さんが死んだって。
・・・何度も聞いたよ。
そんな立派な海軍の未来よりも、私の命を優先したんだって。
何度も・・・何度も聞いたよ。
何度聞いても意味が分からない。
どうして私が、海軍の未来なの?
この国には他にも人はいっぱいいるのに。
なんで私なの?
・・・・・
・・・でも・・・そんな事、どうでもいい。
・・・・・
・・・そんな事より・・・
この状況。
・・・・・
・・・そんな事より・・・
・・・・・
・・・私は、死ぬの?
・・・・・
・・・・・
「・・・さくら」
なあに?
「医者の話によれば・・・」
・・・・・
・・・・・
「お前の命は、あと一ヶ月だそうだ」
・・・・・
・・・そう。
・・・・・
・・・やっぱりね。・・・そんな気はしてた。
・・・・・
お父さんは、しばらく静かにうつむいている。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「・・・だが、ひとつだけ・・・方法がある」
・・・なに?
「・・・ひとつだけ・・・方法がある」
・・・え?
それは、私の病気を治す方法って事?
・・・・・
「・・・さくらを・・・生かす方法だ・・・」









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桜花

 「偵察機03より入電。敵艦隊の位置を確認」
妙に静かな司令中枢に、通信要員の声が響きます。
彼我共に、このまま前進すると、接触点は、伊豆沖あたりでしょうか。
まだ・・・しばらく時間があります。
桜花さん、少し・・・お休みになられてはどうでしょうか。
シノさんの声がします。
睡眠なら、今とりました。
・・・え?接続状態のまま・・・ですか?

妙な夢を見ました。

・・・夢?

「作戦は完了です。艦隊要員は、交代で休憩を取って下さい」
桜花の声に、参謀部の皆さんは一瞬驚いたようにこちらを見ますが、
そのまま、じっとしています。
・・・・・
「・・・私と共に・・・行くつもりですか?」
・・・・・
「そうですか。なら・・・もう何も言いません」
・・・結局・・・
こうなる運命だったのでしょう。
・・・あの時・・・「さくら」のままで、私が死んでいれば・・・
私一人だけで済んだのに・・・
・・・・・














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