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・・・ずっと昔・・・
寂しげに去っていく、後ろ姿を覚えている。
まだ幼かった私は、お父さんに手を引かれながら、それを見た。
それが私の、一番古い記憶。
・・・今思えば、あれが・・・
・・・「本当のお父さん」だったのかもしれない。
病院のベッドに横になったまま、私はそんな事を、ぼんやりと考えている。
昨日ミヨちゃんが、目をキラキラさせて「流れ星に3回願い事を言えば願いがかなう」って言うの。
ミヨちゃんって・・・そういう子よね。
ロマンチックっていうか。うん。
でもそんな、ね。おとぎ話じゃないんだから。
そうそう都合よく願いがかなうもんじゃ無いよ。
なんて、内心バカにしながらも、なぜか昨日の夜は、ずっと夜空を眺めていて。
今日はとても眠い。
それで、一時間目はほとんど・・・居眠りしてたのかな?
授業の内容を全く覚えてない。
二時間目あたりから頭はしゃきっとしてきたんだけど、
三時間目が終わったあたりから・・・またいつもの・・・
・・・吐き気。
そしてまた、頭がくらくらしてきて、今日も保健室。
最近、こんなのばっかり。
薬を飲んでしばらく横になってたら、だんだん調子が良くなってきたので、
午後の授業はしっかり出ようと思ったんだけど、
なぜか今日は・・・
お父さんが学校に迎えに来た。
・・・え?
仕事はどうしたの?
お父さんはニタニタ笑って「今日は休み」なんて言うけど、
・・・たぶん嘘。
だって、目がうるうるしてるもの。
・・・きっと、そうなんだ・・・
私の病気のせいね。
そして今日は学校を早退して、そのまま病院へ。
大きな病院。
いつも人が・・・ほとんどいない、大きな病院。
・・・私は・・・目覚まし時計の音で目覚める。
いや、これは・・・目覚まし時計じゃなくて・・・
・・・心電図?・・・の音?
なにこれ。
私の体に、コードがたくさん付けられている。
まるで救急患者みたい。
・・・これはまた・・・お父さんのたちの悪い冗談かと思ったけど・・・
どうやら違うみたい。
今までに見たことも無いくらい・・・お父さんの表情は暗く、深刻。
じっと、私を見ている。
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・・・そうか・・・
なんとなく、そんな気はしていたけど・・・
・・・私は・・・
・・・・・
その時、お父さんは突然、妙な事を言う。
「お前の・・・本当のお父さんに会いたいか?」
・・・・・
・・・え?
・・・本当の・・・お父さん?
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・・・いきなり・・・何を言い出すかと思えば・・・
べつに今さら・・・会いたくなんかない。
私を捨てたお父さんでしょ?
「さくら、それは違うぞ。軍からお前を隠す為に、俺に預けたんだ。海軍の未来よりも、お前の命を選んだんだ。海軍を心より想っているあいつにとって、それは苦汁の決断だった」
・・・その話、何度も聞いたよ。
この国が平和でいられるのも、海軍が命懸けで護っているからだって。
・・・何度も聞いたよ。
この国を護る為に、たくさんの兵隊さんが死んだって。
・・・何度も聞いたよ。
そんな立派な海軍の未来よりも、私の命を優先したんだって。
何度も・・・何度も聞いたよ。
何度聞いても意味が分からない。
どうして私が、海軍の未来なの?
この国には他にも人はいっぱいいるのに。
なんで私なの?
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・・・でも・・・そんな事、どうでもいい。
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・・・そんな事より・・・
この状況。
・・・・・
・・・そんな事より・・・
・・・・・
・・・私は、死ぬの?
・・・・・
・・・・・
「・・・さくら」
なあに?
「医者の話によれば・・・」
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・・・・・
「お前の命は、あと一ヶ月だそうだ」
・・・・・
・・・そう。
・・・・・
・・・やっぱりね。・・・そんな気はしてた。
・・・・・
お父さんは、しばらく静かにうつむいている。
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・・・・・
・・・・・
「・・・だが、ひとつだけ・・・方法がある」
・・・なに?
「・・・ひとつだけ・・・方法がある」
・・・え?
それは、私の病気を治す方法って事?
・・・・・
「・・・さくらを・・・生かす方法だ・・・」
桜花
「偵察機03より入電。敵艦隊の位置を確認」
妙に静かな司令中枢に、通信要員の声が響きます。
彼我共に、このまま前進すると、接触点は、伊豆沖あたりでしょうか。
まだ・・・しばらく時間があります。
桜花さん、少し・・・お休みになられてはどうでしょうか。
シノさんの声がします。
睡眠なら、今とりました。
・・・え?接続状態のまま・・・ですか?
妙な夢を見ました。
・・・夢?
「作戦は完了です。艦隊要員は、交代で休憩を取って下さい」
桜花の声に、参謀部の皆さんは一瞬驚いたようにこちらを見ますが、
そのまま、じっとしています。
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「・・・私と共に・・・行くつもりですか?」
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「そうですか。なら・・・もう何も言いません」
・・・結局・・・
こうなる運命だったのでしょう。
・・・あの時・・・「さくら」のままで、私が死んでいれば・・・
私一人だけで済んだのに・・・
・・・・・
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